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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)2424号 判決

原告 相原こう

原告訴訟代理人弁護士 上野久徳

同 木戸口久義

同 林紘太郎

被告 春日大治郎

被告 春日義男

被告両名訴訟代理人弁護士 小見山繁

同 菊地紘

主文

一、原告の請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1.(一)(主位的請求)

(1)  被告春日義男は原告に対し別紙目録記載(五)の建物を収去して同目録記載(一)ないし(四)の土地を明渡せ。

(2)  被告春日大治郎は同目録記載(六)の建物を収去して同目録記載(一)ないし(四)の土地を明渡せ。

(二)(予備的請求)

被告春日大治郎は同目録記載(五)、(六)の建物を収去して同目録記載(一)ないし(四)の土地を明渡せ。

2. 被告春日大治郎は原告に対し金一九五万一、〇〇〇円および昭和四九年一月一日から前記1の(一)(2)の土地明渡しずみまで(主位的請求の理由がないときは前記1の(二)の土地明渡しずみまで)一ヶ年金七七万九、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

3. 訴訟費用は被告らの負担とする。

4. 仮執行の宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1. 原告は別紙目録記載(一)ないし(四)の各土地(以下本件(一)ないし(四)の土地という)の所有者である。

2. 原告は被告春日大治郎(以下被告大治郎という)に対し本件(一)、(二)の土地を賃貸し、これを引渡した。

3. 被告大治郎は本件(二)の土地上に別紙目録記載(六)の建物(以下本件(六)の建物という、別紙図面B部分)を建築所有しているほか、被告春日義男(以下被告義男という)に対し原告に無断で本件(一)、(二)の土地を転貸した。そして被告義男は右転借りした本件(一)、(二)の土地及び原告が被告らに賃貸していない本件(三)、(四)の土地上に別紙目録記載(五)の建物(以下本件(五)の建物という、別紙図面A、C、D部分―以下A、C、D部分という―)を建築所有して本件(一)ないし(四)の土地を占有している。

4. そこで原告は被告大治郎に対し本件訴状をもって右の無断転貸を理由として前記本件(一)、(二)の土地についての賃貸借解除の意思表示をなし、本件訴状は昭和四五年三月二四日同被告に送達されたから、右賃貸借は右同日限り解除により終了した。

そして被告大治郎においても本件(二)の土地のほか、本件(一)、(三)、(四)の土地をも占有しているところ、右のような次第で本件(一)、(二)の土地の賃貸借は解除されたし、本件(三)、(四)の土地については被告らはもともとなんらの権原もなく占有しているのであるから、被告らは右解除後においては本件(一)ないし(四)の土地を不法占有しているというべきである。

5. そして、別紙地代計算表のとおり本件(一)ないし(四)の土地の地代相当額は、本件訴状送達の日から昭和四八年一二月三一日までは合計金一九五万一、〇〇〇円であり、昭和四九年一月一日以降は一年につき金七七万九、〇〇〇円である。

6. よって原告は本件各土地の所有権に基づき及びこれが不法占有を原因として、被告義男に対し本件(五)の建物を収去して本件(一)ないし(四)の土地を明渡すことを求め、被告大治郎に対し本件(六)の建物を収去して本件(一)ないし(四)の土地を明渡すこと及び本件訴状が同被告に送達された日である昭和四五年三月二四日から右土地明渡しずみまでの地代相当の損害金(前記5のとおり)を支払うことを求める。

7. かりに、本件(五)の建物が被告大治郎の所有であり、したがって、転貸の事実が認められず、被告義男が本件(一)ないし(四)の土地を占有していないものとしても、被告大治郎は本件(三)の土地上に本件(五)の建物の一部であるCの部分を原告に無断で増築したから、原告は被告大治郎に対し昭和四五年五月二一日の本件口頭弁論期日において右の無断増改築を理由に前記本件(一)、(二)の土地についての賃貸借を解除する旨の意思表示をした。したがって右賃貸借は右同日限り解除により終了した。

8. よって原告は前同様の土地所有権に基づき及び土地の不法占有を原因として、被告大治郎に対し本件(五)、(六)の建物を収去して本件(一)ないし(四)の土地を明渡すことを求めるとともに前記賃貸借終了の日である昭和四五年五月二一日から右土地明渡しずみまでの地代相当の損害金(その金額は前記6.と同様)を支払うことを求める。

二、被告らの答弁

原告主張の請求原因事実中、原告が本件(一)ないし(四)の土地を所有していること(その取得の時期は後記のとおり)、原告が被告大治郎に対し本件(一)、(二)の土地を賃貸したこと(後記のとおり(四)の土地をもあわせて賃貸したものである)、同被告が本件(一)ないし(四)の土地を占有していること、同被告が本件(二)の土地上に本件(六)の建物を建築所有していること、本件(一)ないし(四)の土地上に本件(五)の建物((そのうちA部分が本件(一)、(二)、(四)の土地上に、そのうちC部分が本件(三)の土地上に、そのうちD部分が本件(四)の土地上に)が存在していること、(後記のとおり所有者は同被告)、原告が、それぞれ、その主張の日、同被告に対してその主張のような無断転貸を理由とする及び無断増改築を理由とする本件(一)、(二)の土地の賃貸借解除の意思表示をしたこと、同被告が本件(三)の土地上に本件(五)の建物中、C部分の増築をしたことは認めるが、その余の事実は争う。

本件(五)の建物の所有者は、本件(六)の建物と同様被告大治郎であるから、同被告がその敷地の一部である本件(一)、(二)の土地を転貸したものとはいえない。したがって転貸を理由とする解除はその効力を生じない。

また被告大治郎は前記のとおり本件(五)の建物を所有するところ、原告が本件(三)の土地の所有権を取得した昭和四二年一〇月二五日より以前に、右建物のC部分のみを右(三)の土地上に増築したにすぎないのみならず、原告は、右増築の事実を知りながら、本訴提起までなんら異議を述べず、突然本訴において増築を問題にしたのであるから、増改築を理由とする解除もその効力を生じない。すなわち、被告大治郎は昭和三一年中、本件(五)の建物のA部分の北側に木造トタン葺店舗を増築し、さらに昭和三二年ころ、右増築部分の東側に、これに接して木造トタン葺店舗を増築したが(これをあわしてC部分となる)、原告は右二回の増築を知りながら、なんらの異議を述べなかったものである。

三、抗弁

1. 被告大治郎は原告から本件(一)、(二)の土地のほか、本件(四)の土地をも賃借りしているものである。その経緯は次のとおりである。

訴外亡春日藤次郎(被告大治郎の実父)は大正二年ころ前所有者から本件(五)、(六)の建物を買受け、そのころ訴外亡相原常吉からその所有する本件(一)、(二)、(四)の土地を建物所有の目的で賃借りした。その後右藤次郎が大正一四年七月八日死亡したので家督相続により亡春日正太郎(藤次郎の二男、被告大治郎の実兄)が右藤次郎の一切の権利義務を承継して、本件(五)、(六)の建物の所有権を取得するとともに、本件(一)、(二)、(四)の土地についての右賃貸借の賃借人たる地位を承継した。ところが右正太郎も昭和一一年五月九日死亡したので、前同様家督相続により被告大治郎(右藤次郎の三男)が右正太郎の一切の権利義務を承継して、本件(五)、(六)の建物の所有権を取得するとともに本件(一)、(二)、(四)の土地についての右賃借の賃借人たる地位を承継した。一方亡相原常吉は昭和七年中死亡したので、家督相続により亡相原藤右ヱ門(常吉の子、原告の実兄)が右常吉の一切の権利義務を承継して、本件(一)、(二)、(四)の土地の所有権を取得するとともに、右賃貸借の賃貸人たる地位を承継し、さらに右藤右ヱ門が昭和二九年五月二六日死亡したので、原告が相続により本件(一)、(二)、(四)の土地に関する一切の権利義務を承継して、右の賃貸借の賃貸人たる地位をも承継した。

2. 本件(三)の土地はもと東京都の所有であったが、被告大治郎は昭和三〇年七月一日に東京都からこれを賃借りした。そして右(三)の土地上に前記のように本件(五)の建物中、C部分を増築した。そして原告は被告大治郎が本件(三)の土地を賃借りしている事実及び被告大治郎所有の本件(五)の建物の一部である右C部分がその上にあることを知りながら昭和四二年一〇月二五日東京都から右(三)の土地を買受けたのであるから、被告大治郎は右の賃借をもって原告に対抗しうるというべきである。

被告大治郎は前記のように本件(三)の土地上に本件建物中Cの部分を増築したのであって、C部分は本件(三)の土地上に存在しているのであり、しかも被告大治郎は昭和三〇年七月一日東京都から本件(三)の土地の使用を許可され、その承認のもとに右増築をしたものであって、原告は右の各事実を知りながら前記のように東京都から本件(三)の土地を買受けたものである。したがって本件(三)の土地につき被告大治郎の賃借権が認められないとしても、右C部分の存在による本件(三)の土地所有権の負担は原告において受認すべきものであり、右C部分の収去請求は権利の濫用として許されないものというべきである。

四、抗弁に対する認否

原告が本件(一)、(二)の土地につき被告ら主張のような経緯で亡相原常吉、同藤右ヱ門から順次所有権を取得したこと及び本件(三)の土地につき被告ら主張の日、その主張のように東京都からその所有権を取得したこと、本件(五)の建物のC部分の増築につき、被告ら主張の時期にその主張のような増築がなされたことは認めるが、その余の事実は争う。

第三、証拠〈省略〉。

理由

一、原告が本件(一)ないし(四)の土地を所有していること、原告が被告大治郎に対し本件(一)、(二)の土地を賃貸したこと、同被告が本件(一)ないし(四)の土地を占有していること、本件(二)の土地上に同被告所有の本件(六)の建物が存在すること、本件(一)ないし(四)の土地上に本件(五)の建物(そのうちA部分が本件(一)、(二)、(四)の土地上に、そのうちC部分が本件(三)の土地上に、そのうちD部分が本件(四)の土地上に)が存在すること、原告が本件(一)、(二)の土地につき被告ら主張のような経緯で所有権を取得したことは当事者間に争がない。

二、(無断転貸を理由とする解除について)

原告が被告大治郎に対し昭和四五年三月二四日送達された本件訴状をもって被告義男に対する転貸を理由として本件(一)、(二)の土地についての前記賃貸借を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争がない。そこで右転貸の有無について検討する。

原告は被告大治郎が本件(一)、(二)の土地を被告義男に転貸し、同被告が右土地上に本件(五)の建物を所有している旨主張し、成立に争のない甲第六号証の五によると本件(五)の建物の登記簿上の所有名義人は被告義男になっていることが認められるけれども、前記一の当事者間に争のない事実と〈証拠〉によると、本件(五)の建物は、本件(六)の建物とともに亡春日藤次郎(被告らの実父)の所有建物であったところ、同人が大正一四年七月八日死亡し、その後訴外亡春日正太郎(被告大治郎の実兄)が昭和一一年五月九日に死亡したので、いずれも家督相続により右藤次郎から右正太郎へ、同人から被告大治郎へ順次その所有権が移転して、現に被告大治郎が本件(五)、(六)の建物を所有していること、しかし被告大治郎が、右正太郎死亡当時近く出征することが確実視され、戦死という不慮の事態に備える意味でその登記簿上の名義のみ、便宜的に同被告の弟である被告義男の所有名義にしたにすぎないことが認められ、右事実は右認定の用に供した各証拠により認められる被告義男が昭和二一年中に分家して板橋区常盤台に家をもらって居住し、その後本件(五)の建物に居住したことはなく、本件(五)の建物の税金は被告大治郎が支払っている等の事実からも肯認しうるところであり、(以上認定を左右するに足る証拠はない)、他に本件(五)の建物が被告義男の所有するものであること及び本件(一)、(二)の土地が被告大治郎から被告義男に転貸された事実を認めるに足る証拠はない。

したがって原告のした右転貸を理由とする解除はその効力を生じないものというべく、右の解除を前提とする、本件(五)、(六)の建物を収去して本件(一)、(二)の土地を明渡すこと及び本件(一)、(二)の土地についての賃料相当の損害金の支払を求める原告の請求はその余の判断をなすまでもなく理由がない。

三、(無断増改築による解除について)

原告が被告大治郎に対し昭和四五年五月二一日における本件口頭弁論期日に、原告に無断で、被告大治郎において本件(五)の建物中C部分を本件(三)の土地上に増築したことを理由に本件(一)、(二)の土地についての前記賃貸借を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争がない。

被告大治郎が、本件(五)の建物中C部分の増築につき、昭和三一年中及び昭和三二年ころの二回にわたり被告ら主張のような増築をしたこと、C部分の敷地である本件(三)の土地は従前東京都の所有であったところ、昭和四二年一〇月二五日に原告がこれを買受けてその所有権を取得したことは当事者間に争がなく、したがって右のC部分の増築は本件(三)の土地が第三者の所有当時に、被告大治郎により、その土地上になされたものであり、しかも原告から賃借り中の本件(一) (二)の土地ではない土地上になされたものであるのみならず、右C部分の構造も後記認定のように簡易なものであり、また、本件(一)、(二)の土地上に、C部分の南側に接して増築されている部分があるけれども、その建坪は僅少にすぎず、しかもその構造も右C部分の構造と同様であるから〈証拠判断省略〉従来の賃借土地の使用状況を賃貸人に不利益に著しく変更するものとはいえず、その用方違反の程度は軽微であり、かりに原告に無断で右増築をしたとしても、賃貸借の継続を困難ならしめる背信行為とは認め難く、原告の右の無断増改築を理由とする解除もまたその効力を生じないものといわねばならない。

したがって右の解除を前提とする、本件(五)、(六)の建物を収去して本件(一)、(二)の土地を明渡すこと及び本件(一)、(二)の土地についての賃料相当の損害金の支払を求める原告の請求はその余の判断をなすまでもなく理由がない。

四、(本件(四)の土地の賃貸借について)

前記一の当事者間に争のない事実及び前記二において認定した事実と〈証拠〉を総合すると次のような事実が認められる。

1. 訴外亡春日藤次郎(被告大治郎の実父)は大正二年ころ、前所有者から本件(五)、(六)の建物を買受け、そのさい訴外亡相原常吉から、その敷地の用に供するため、建物所有を目的として右常吉の所有する本件(一)、(二)の土地を同人から賃借りしたこと、その後右藤次郎が大正一四年七月八日死亡したので、家督相続により亡春日正太郎(藤次郎の二男、被告大治郎の実兄)が右藤次郎の一切の権利義務を承継し、さらに右正太郎も昭和一一年五月九日死亡したので、前同様家督相続により被告大治郎が右正太郎の一切の権利義務を承継したこと、一方相原常吉が昭和七年中死亡したので、家督相続により相原藤右ヱ門(常吉の子、原告の実兄)が右常吉の一切の権利義務を承継し、さらに右藤右ヱ門が昭和二九年五月二六日死亡したので、相続により原告が本件(一)、(二)の土地に関する一切の権利義務を承継したこと、右の結果、本件(五)、(六)の建物の所有権及び本件(一)、(二)の土地についての右賃貸借の賃借人たる地位は右藤次郎から右正太郎へ、さらに同人から被告大治郎へと順次承継され、また本件(一)、(二)の土地の所有権及び右の賃貸借の賃貸人たる地位は右常吉から右藤右ヱ門へ、さらに同人から原告へと順次承継されたこと及び本件(四)の土地は右常吉の所有するところであったところ、同人の死亡により右藤右ヱ門が家督相続によりその所有権を取得したこと、

2. 本件(四)の土地上にある本件(五)の建物中のD部分は、現在においては、昭和四二年ころ改造されて四畳半二間その他よりなる建物で人の住居にあてられているけれども、従前は二棟よりなり、本件(五)の建物中A部分の建物の付属建物である物置(現況よりやや狭い)であって、現在においてもその旨登記されているところ、左物置の建物はもちろん、本件(四)の土地(本件(一)、(二)の土地はその北側に接して位置する)とその南側に接する隣地との境界線附近に植えられた数本の欅、樫は被告大治郎(大正四年一一月二三日生)、同義男(同九年七月五日生)らの幼少のころから存在していて、大正一〇年ころには右物置の建物は被告らの生家の大工及び鍜治屋の仕事場として使われており、前記藤次郎が大正二年ころ本件(五)、(六)の建物を買受けて以来、今に至るまで前記欅等の北側の土地すなわち本件(四)の土地と本件(一)、(二)の土地とはあわせて本件(五)、(六)の建物の敷地として右藤次郎、被告ら一家によって使用されていたこと、そして右の使用状況は外からも容易にみることができたこと、右常吉、藤右ヱ門、原告は本件(四)の土地から六〇〇メートル位しかはなれていない場所に住んでいたこと、しかも右原告ら側と右被告ら側との間には当初から昭和四二年秋ころに至るまでの間、賃貸借土地の範囲についてはなんらの紛争はなく、両者の間に、昭和三〇年中、賃貸借についての紛争があったさいにも、それは地代の値上げと、これにともないその延滞についてのものであり、賃貸借土地の範囲についてはなんらの問題もなかったこと、

3. 本件の土地の賃貸借契約については、前記大正二年ころの当初から、土地の地番、地積に重きをおいて締結されたものではなく、むしろどの範囲の土地が本件(五)、(六)の建物の敷地として使用されているかに重きをおいて締結されたものであること、

以上の各事実に、以上認定の用に供した前掲各証拠及び前記当事者間に争のない事実をあわせ考えると、前記藤次郎は大正二年ころ、前記常吉から本件(一)、(二)の土地のほか本件(四)の土地をもあわせて建物所有の目的で賃借りしたこと、そして被告大治郎が右藤次郎から右正太郎を経由して本件(五)、(六)の建物の所有権を取得し、一方原告が右常吉から右藤右ヱ門を経由して本件(一)、(二)土地のほか本件(四)の土地の所有権を取得したこと、その結果、右の各所有権と同様の経過により前記本件(一)、(二)、(四)の土地の賃貸借につき、被告大治郎がその賃借人たる地位を取得し、また原告がその賃貸人たる地位を取得したことを認めることができ、証人相原好雄の証言(第一、二回)中、以上各認定に反する部分は措信し難く、成立に争のない甲第二号証、第三号証によっては前記認定の1ないし3事実に照らし、以上各認定を覆すに足らず、弁論の全趣旨によると甲第五号証(畑小作帳)の成立を認めることができるけれども、前記のとおりもともと本件(一)、(二)の土地は建物所有を目的として賃貸借されたものであり、また甲第五号証によると、本件(一)、(二)の土地につき、その記載方法(他については地番の記載なし)、位置が他の部分と異なっていること甲第五号証の記載自体により明白であり、以上の事実及び前記認定の1ないし3事実に鑑みると右甲第五号証によっても前記認定を覆すに足らず、また前掲甲第六号証の四、第七号証の一、乙第一号証によると本件(四)の土地につき登記簿上、相原常吉から昭和二五年四月五日受付をもって自創法により農林省に所有権取得の登記、昭和三五年五月九日受付をもって錯誤を原因とする右登記抹消の登記、次いで同年六月四日受付をもって昭和七年七月二一日家督相続により前記藤右ヱ門において取得した所有権を昭和二九年五月二六日相続を原因とする原告が所有権を取得した旨の登記、さらに昭和三五年一〇月一四日受付の売買を原因とする相原安治が所有権を取得した旨の登記、その後の昭和四三年八月三一日受付をもって同年五月二日売買を原因とする原告が所有権を取得した旨の登記があることが認められるけれども、右甲第六号証の四、第七号証の一、乙第一号証、証人相原好雄の証言(第一回、前記及び後記措信しない部分を除く)によると本件(四)の土地はもともと他の土地とともに一筆の土地であったところ、その後分筆されたが、分筆された後の本件(四)の土地部分は自創法により買収処分を受けた土地ではなく、その処分を受けたのは右の他の土地であり、分筆後の本件(四)の土地が、登記簿上、誤って右買収処分を受けた土地としてあつかわれた結果、右のような真実にそわない登記記載となったにすぎないことが認められるから(証人相原好雄の証言―第一回―中、右認定に反する部分は措信しない。)、右の登記記載をもって前記認定を覆すに足らず、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

したがって本件(四)の土地についての建物収去土地明渡及び地代相当の損害金の支払を求める原告の請求も、その余について判断するまでもなく理由がない。

五、(本件(三)の土地についての明渡し等について)

前記当事者間に争のない原告が昭和四二年一〇月二五日本件(三)の土地を東京都から買受けてその所有権を取得した事実、成立に争のない甲第九号証の一、二、乙第三ないし第五号証、証人相原好雄の証言(第一、二回)、被告春日大治郎本人尋問の結果(第一、二回、後記措信しない部分を除く)によると、本件(三)の土地はもと東京都の所有地で道路法による道路の指定を受けていた土地であったところ、被告大治郎は昭和三〇年八月一日その占用の許可の出願をなし、東京都から囲込を設けることを目的とし、期間を同年七月一日から昭和三一年三月三一日までとして道路占用の許可を受け、占用料を支払って本件(三)の土地の使用をはじめ、その後もその都度前同様の目的をもって一年間を限って道路占用の許可を受け、占用料を支払って本件(三)の土地の使用を継続していたが、少くとも昭和三九年一〇月二五日以降の本件(三)の土地を使用することについては、東京都との間に、右の占用許可を受けることはなかったことはもちろん、その使用をなしうるなんらの契約をも締結したことがなかったことが認められ、被告春日大治郎の尋問の結果(第一、二回)中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右しうる証拠はない。

しかしながら前記当事者間に争のない各事実、前段認定の各事実、前掲〈証拠〉を総合すると、原告は昭和四二年一〇月二五日、本件(三)の土地上に本件(五)の建物中C部分が存在することを知りながら、本件(三)の土地を東京都から買受けたものであること、右C部分の構造は基礎の土台のない木造トタン葺のバラック建の建物であり、しかも右C部分は本件(五)の建物の本体であるA部分に比してその建坪も僅少であって、右A部分に増築附加されて一体となっていること、前記のように被告大治郎はその先代ら以来長期間本件(五)、(六)の建物所有を目的として本件(一)、(二)、(四)の土地を原告及びその先代らから賃借りしてきたものであり、本件(三)の土地は本件(一)、(二)、(四)の土地に比してその坪数も僅少であることが認められ(右認定を覆すに足る証拠はない)以上の事実及び本件各土地建物の位置、形状(別紙図面のとおりであること明白)からすると本件(五)、(六)の建物の使用と本件(一)、(二)、(三)、(四)の土地の使用については、建物相互間、土地相互間及び建物土地相互間においてそれぞれ一体と考えるのが相当であり、以上の諸点に徴するときは、原告が本件(三)の土地の所有権に基づきC部分を収去して本件(三)の土地の明渡しを求めるのは権利の濫用とするのが相当である。そして右のとおり右明渡請求が権利の濫用であり、しかも前示権利の濫用の基礎とした諸事情のもとにおいては被告大治郎の本件(三)の土地占有は違法性がないものとするのを相当とすべく、不法占有を理由とする損害金の支払を求めることは失当であるというべきである。

六、よって原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柏原允)

〈以下省略〉

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